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ホクレアが教えてくれたこと: …

ホクレアが教えてくれたこと: 池田恭子氏 Vol. 08

2021.07.02

ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている、池田恭子氏。2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録をお届けします。

ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている、池田恭子氏。2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録をお届けします。

池田恭子氏 プロフィール

海の素人ではあるが、2007年のホクレア日本航海に通訳・教育プログラム担当で乗船。その経験を経て、「わたしたちの健やかさはどこからくるのか」という問いをもちながら、日本とハワイをつなぐ学びのプログラムを共創する仕事に携わる。現在はカウアイ島で子育てをしながら、大学で国際プログラムのコーディネーターの仕事をする。カウアイの航海カヌー「ナマホエ」にも家族ぐるみで関わっている。ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている。

この記事は2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録から抜粋。

伝統を守るということ

ホクレアのストーリーは、壮大なスケールでの異文化交流の物語でもある。グローバル化が進み、世界が均一化されていくなかで、失われていく伝統を守るべき合理的な理由は見つからないかもしれない。伝統とは、時間が経つにつれ、その役目を果たし、消えていく運命にある、と人は思うかもしれない。多くの人がそう考えるからこそ、この瞬間にも少数言語は失われ、伝統技術も過去に葬り去られていっている。世界のすみずみまでグローバル化の影響が及ぶ今日において伝統を守るということはどういうことなのか。ホクレアの軌跡を追い、また、今回の航海に参加しながら、そのことにずっと想いを馳せてきた。

伝統航海術を伝承しようとしたときに、多くのしきたりが破られた。例えば、よそ者に、一族の中だけで伝承されてきた伝統航海術を教えるというのもひとつ。また女性がカヌーにのって航海する、ということもそのひとつだ。そのジレンマを抱えながらも、内からの声と先を見る心の目に導かれ、ハワイからきた青年に技術を教えたマウ。島民や家族からの白い目を覚悟で、ミクロネシアの女性としてホクレア号に乗船してふるさとのチューク島まで帰ったポリーナ。ふたりに共通するのは、「伝統を守ることはどういうことか」という問いに対する答えだ。伝統を守る、ということは、「ご先祖がやったことをそっくりそのまま学び伝承することではなく、ご先祖がなしとげようとしたことをやること。」また、ハワイのある先生は、伝統を学ぶということを“Connect with what moved our ancestors 「ご先祖を突き動かしたものと繋がること」”といっていた。つまり、形としての伝統ではなく、想いとしての伝統を受け継ぐことだった。

むかしミクロネシアで航海カヌーが使われ、伝統航海術で航海が行われていたとき、ミクロネシアのご先祖は、島に食料を持ち帰るために航海に出た。島民に食べ物をもたらすこと、それが航海士の役目であった。当時島民に課せられていたタブーは、その島社会の秩序を守るためのものであった。これらの伝統やしきたりの根底にある想いは「共存」「共生」にあったのではないだろうか。

マウ、ポリーナ、そしてホクレアに関わる多くの人にとって、グローバリゼーションやアメリカナイゼーションは阻止しがたい大きな波であり、そのような太平洋の島々の現実において伝統を継承するということは、そのような祖先の想いを軸に、そのために必要な「型」を「体験」を通して学び伝えていくことなのだ。そして、今日のように均一化されていく世界において、かれらのふるさとの風土に育まれた独自の精神性に根ざした生き方の合理性と、また不合理であっても「しっくりとくる」ものを再発見し、それに価値を見出し、伝えていくことなのだ。そして、それは、「ご先祖が成し遂げようとしたこと」「ご先祖を突き動かしたもの」とその根底にある想いを体を通して感じることであり、それを通して、過去も現在も完全否定しない、過去と現在を貫き未来へむけた「共生」へのあらたな生き方を模索することなのではないか。

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