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ホクレアが教えてくれたこと: …

ホクレアが教えてくれたこと: 池田恭子氏 Vol. 04

2021.07.03

ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている、池田恭子氏。2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録をお届けします。

ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている、池田恭子氏。2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録をお届けします。

池田恭子氏 プロフィール

海の素人ではあるが、2007年のホクレア日本航海に通訳・教育プログラム担当で乗船。その経験を経て、「わたしたちの健やかさはどこからくるのか」という問いをもちながら、日本とハワイをつなぐ学びのプログラムを共創する仕事に携わる。現在はカウアイ島で子育てをしながら、大学で国際プログラムのコーディネーターの仕事をする。カウアイの航海カヌー「ナマホエ」にも家族ぐるみで関わっている。ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている。

この記事は2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録から抜粋。

一番印象に残った言葉

今回の航海において、一番印象に残った船長からの言葉がある。それは、わたしが何気なく発した言葉を受けてのものだった。ある日、わたしはふと航海後の自分の生活に想いを馳せた。29歳にもなって親元に住んでいる自分に少し恥ずかしさを覚えていた。そして、言った。「早く自立しなくちゃ。」 この何気なく発したわたしの言葉を尊敬するチャド船長はただ沈黙で迎えた。そして、ゆっくりとこう言った。

「恭子、今いった言葉は本気でいっているのか?」わたしは訳が分らず返事ができずにいた。そして船長はこう続けた。

「今の恭子の言葉が間違っているというのではない。ただ、恭子がまるで追い立てられるかのようにその言葉をいったことがひっかかるんだ。」「恭子は本当に今いったことを信じているの?」

そしてさらに続けた。

「ポリネシアでは、人間はひとりでは生きていけない、ということを学ぶと成人と見なされるんだ。西洋では、自立が成人の条件とされるが、ハワイでは違う。自分が多くの人との関係性の中で生かされている、ということを学ぶことが成人とみなされる条件なんだよ。」「どちらが正しいといいたいのではなくて、自分はどの価値観を持っているのか、それを知ることが大切なんだ」「だから、これから自分が発する言葉には気をつけなくてはいけない。何気なく発する自分の言葉に人間とは縛られてしまうものだから。」

これまで自分を縛っていた「自立」という言葉が思い起こさせるイメージ、そこから一気に解放された気がした。カヌーという空間では自分の存在を関係性の中で感じる。そして、自立する(自ら立つ)、ということさえも、実は自分という存在を包み込む関係性の中にしか存在し得ないことを知った。

わたしはこのチャド船長の言葉に、ある言葉が表さんとしているものに自分なりの理解をもつことの大切を教えられた。そして、自分にとって軸となる、「しっくりとくる」価値観を知ること、気づくこと、再発見すること、の大切さを教えてもらった。

オノヒ・パイション

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