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ホクレアが教えてくれたこと: …

ホクレアが教えてくれたこと: 池田恭子氏 Vol. 03

2021.07.04

ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている、池田恭子氏。2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録をお届けします。

ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている、池田恭子氏。2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録をお届けします。

池田恭子氏 プロフィール

海の素人ではあるが、2007年のホクレア日本航海に通訳・教育プログラム担当で乗船。その経験を経て、「わたしたちの健やかさはどこからくるのか」という問いをもちながら、日本とハワイをつなぐ学びのプログラムを共創する仕事に携わる。現在はカウアイ島で子育てをしながら、大学で国際プログラムのコーディネーターの仕事をする。カウアイの航海カヌー「ナマホエ」にも家族ぐるみで関わっている。ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている。

この記事は2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録から抜粋。

カヌーが育む価値観

考古学者のPatrick Kirchは航海カヌーがポリネシア文化の核となる価値観を育んだという。カヌーの上で必要とされることが、カヌーでポリネシアへ拡散していったハワイアンの先祖達の価値観、「精神の習慣」をつくってきたと。最初にハワイ諸島にたどりついたハワイアンの祖先は、先に島があるのかの確証もないまま、夢に現れた言葉や前兆を信じ、または、遠くのどこかから流れ着いた見慣れない植物や貝などに水平線の先にあろう島を想い、海に漕ぎ出した。小さなカヌーに限られた食料、水、などを積んで、あるかも知れぬ島に向けて漕ぎ出したのだ。実際カヌーという小さな乗り物に乗って大海原に漕ぎ出してみると、何千年も前に大海原に漕ぎ出したハワイアンのご先祖たちの旅を追体験しているような気分になる。そして、カヌーに乗って、未知の領域に漕ぎ出すというあるグループに共有された経験が、その後の社会形成に与えたであろう影響がより現実味をもって感じられた。

まずカヌーの上では空間が限られている。全長約19メートル、幅5メートルの小さなカヌーに約20人(最大)のクルーが生活している。プライバシーなどはないも同然。また、カヌーの上では、食料や水などの資源も限られている。そのような、さまざまな制限の中、クルーは船を前に進めるたねの作業を共にしていく。実際にカヌーの上で生活をしていると、そのような状況の中、どうすれば心地よく生活できるかが見えてくる。だれも「舟の上での価値観」について教えてくれたり、話したりはしない。けれど、小さい空間の中では、すべての関係が密につながっていて、その関係性の中での自分の言動のもつ影響力が如実に見えてくる。そんな中で、カヌーの上での行動の指針となる価値観が築かれていく。

航海に参加したいと思うものが、長年陸の上でのカヌーの補修作業などに携わらなくてはいけないのも、海の上で自分達の命を守る「お母さん」となるカヌーが良好な状態で進水することが航海の成功、そして、クルーのいのち不可欠であるからだ。人間関係においても、自分の好き嫌い、相手との相性に関わらず、逃げ場がないカヌーという空間ではだれもがみんなと関わっていかなくてはいけない。協力することを学ばないとカヌーは目的地にたどり着かない。そういった意味で、カヌーによる航海では多くのものがシンプルに見えてくる。自分の行動の結果が、自分の心地よさ、そして、命にも直結しているのだ。

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