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ハワイの森とカヌー その3…

ハワイの森とカヌー その3

2022.02.21

伝統的な素材で作られたカヌー「ハワイロア」の物語をお伝えする「ハワイの森とカヌー」シリーズ。巨木の寄付を申し出たアラスカの先住民たちに何も告げられないままハワイへ戻ったナイノアは、評議会へ結果報告に訪れます。話を聞いたハワイアンの長老は、大切なことをナイノアに伝えるのでした。

伝統的な素材で作られたカヌー「ハワイロア」の物語をお伝えする「ハワイの森とカヌー」シリーズ。巨木の寄付を申し出たアラスカの先住民たちに何も告げられないままハワイへ戻ったナイノアは、評議会へ結果報告に訪れます。話を聞いたハワイアンの長老は、大切なことをナイノアに伝えるのでした。

長老たちの導き

ハワイに戻ったナイノアは、アラスカでの出来事を、「ハワイロア」建造をサポートする評議会に報告します。「ハワイロア」建造の要となる大木を、なぜ受け取らなかったのか、評議会のメンバーはみな、当惑しました。

海の向こうからカヌー建造のための大木を用いることは、歴史的にも先例のあることでした。遡ること約200年ほど昔、イギリス海軍士官で 探検家としても知られるジョージ・バンクーバー艦長は、ハワイのマウイ島を訪れた際、30メートル以上もある巨大なカヌーを目にします。カヌーは上質なマツの木で造られていました。

ハワイにはマツの木がないことを知っていたバンクーバー艦長は、カヌーの持ち主であった酋長に訊ねました。

「この木はどこのものですか?」

酋長は言いました。

「神からの賜物です」

と。

マツの木は、ハワイへ漂着した巨大な流木でした。

そのような大木を目にしたことがなかった当時のハワイアンたちは、それを神の賜物として受け取ったのです。そのようなマツの巨木は、アメリカ大陸の北西海岸に育つので、おそらくそこからハワイへと流れ着いたのであろう、とバンクーバー艦長の航海日誌には記されています。

ナイノアは、こうした歴史的背景も理解していました。大陸からの木を受け取ることは、古くハワイアンも行っていたことであり、昔ながらの材料でカヌーを造るという目的に反するものではない。アラスカの大木は「ハワイロア」建造の要になるものであり、なにより、森の恵みを分かち合いたいと申し出てくれたアラスカ先住民と、新たな繋がりが生まれる素晴しい機会にもなる。何も間違っていることはない、それでもナイノアは、胸につかえる違和感を拭い去ることができずにいました。

ハワイアンであり作家、歴史家、詩人のJohn Dominis Holt。「ハワイロア」建造をサポートする評議会メンバーのひとり

夢からのメッセージ

評議会のメンバーのひとりであったハワイの長老は、困惑するナイノアを見て、こう訊ねました。

「ここのところ、どんな夢を見ている?」

それは、ナイノアの心の奥に眠る、真の想いを掘り出すための問いかけでした。

頭ではなく、より深く精神的な部分にある心の声。その声に従って物事を決めていくことを、ハワイの人々が古くから大切にしてきたのです。

ナイノアは静かに思いを巡らせました。

実際のところ、ナイノアはその頃、繰り返し同じ夢を見ていました。その夢は、ハワイ島の森に大木を探しにいった時、木を見つけることができないまま森を後にした時の様子で、ナイノアは夢の中で、肩にのしかかるような痛みを味わっていました。その痛みがあまりにも大きく、ナイノアはいつもはっと目覚め、困惑していました。

夢の話を聞いた長老はナイノアに言いました。

「夢は、森を後にした時に感じた痛みについて教えてくれている。君が知るべきことは、すべて与えられている。まだ見えないかもしれないけれど、答えはすぐそこにある。問題があるということだけなく、その解決策さえも。自分の中に答えがあるんだよ。」

ハワイの森でできること

ナイノアは、森へ大木を探しに行った時のことをあらためて思い返しながら考えました。

「森に出掛けた時、僕たちはただ木を探しにいっていた訳ではありませんでした。僕たちは、なにか希望のようなものを探していたのだと思う。コアの森に入ると、とても静かで神聖な気持ちになりました。けれどその森はとても荒らされてもいた。コアの森で大木を探すことで、その土地と精神的な繋がりができていったけれど、深い部分でその繋がりは痛みを伴うものでした。」

ナイノアは、彼の父が1970年代にハワイ島で森の植林活動をしていたことを思い出しました。ナイノアたちが森へと木を探しにいった際、その植林地も通っていました。

「その時は木を探すことに夢中で気づくことができなかったけれど、答えはすでに与えられていたんです。パズルのピースは、すべて自分の前にありました」

森を荒らしたのが自分たちではなくとも、責任を持って、その地をケアしていかなければならない。ハワイの文化は大地をケアすることから繁栄してきた。ただカヌーを造るということの前に大切なことがあり、そこに重きを置いたとき、僕らはアラスカから木を受け取ることができる。

アラスカの木を切り倒す前に、ハワイの荒れた森に、コアの木を植え直す。

アラスカから木を受け取る前に、自分たちの森の再生のために行動し始める。

ナイノアにとって、答えはクリアになりました。

その4に続く

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