分け合って味わう幸せ。おばあちゃんが伝えた伝統料理 Kuhio Grille(クヒオ・グリル)

2023.03.23

アメリカや日本、中国、フィリピンなど、さまざまな文化の多様性を感じるハワイ。それでも、あぁ、ハワイはポリネシア文化圏だった。そんな歴史に思いを馳せられるのが、「カルアピッグ」や「ラウラウ」といったハワイ伝統料理です。ハワイ島ヒロにある「クヒオ・グリル」は、ファミリーに伝わる味を継承したダイナー。1ポンド(約453g)もある大きなラウラウが名物です。

「クヒオ・グリル」を営む荒木ファミリーは、1900年代にハワイに移ったゲンジから始まった

ラウラウとは、肉やシーフードといったメインの食材に、しっかりと塩をしてタロイモの葉で包み、さらにティの葉で包んで蒸し焼きにしたもの。古来、地面に穴を掘り、その中に焼いた石と共に入れ、上から土で覆って加熱するというワイルドな調理法ですが、現在はオーブンを使っています。

包む食材は、鶏、豚、魚介などなんでも。クヒオ・グリルではオリジナルレシピで、ポークとビーフをミックスしています(チキンのみもある)。異なる肉を合わせることで、うま味が複雑さを増し、食感も楽しめるんですね。

地元のファームで育ったフレッシュなタロイモの葉とティの葉を見せてくれる4世のエリンさん

「ラウラウは、かつてはルアウ(祝宴)のご馳走として、特別な時だけ各家庭で作る料理だったそうです。でも、我が家では祖母がしょっちゅう作っていました」と話すのは、日系4世のエリンさん。

タロイモの栽培を始めた当時の自宅と畑の様子。写真提供:クヒオ・グリル

ゲンジの長男でエリンさんの祖父である2世のテツオ。写真提供:クヒオ・グリル

1900年代、曽祖父である荒木ゲンジが、サトウキビ畑で働くため、日本から海を渡りました。時が経ち、ゲンジは長男のテツオとタロイモの栽培を始めます。テツオの妻スエノが料理上手だったことで、荒木家の運命は変わりました。テツオが育てたタロイモの葉を使い、スエノがガレージに置いたストーブの上でラウラウを作る。最初は家族みんなで分け合って食べ、やがてご近所にもおすそ分けしたところ、その味が口コミで広がり、遠方から人が買い求めにやってくるほどになったと言うからすごい。

現在の「クヒオ・グリル」の店内。地元ではフライドライスやサイミンも人気が高い

1995年、テツオの息子のサミュエル(サム)が、ラウラウなどの伝統料理を味わえるレストランとして「クヒオ・グリル」をオープン。父から店を受け継いだエリンさんとふたりの妹は、昨年(2019年)8月、ホノルルのカイムキに支店をオープンしました。

タロイモ畑で働くサム。写真提供:クヒオ・グリル

「ラウラウはとても手間がかかる料理なので、忙しい現代では、家庭で作ることは、ほとんどなくなりました。ウチの店では毎日ラウラウを出しているので、旅行者だけでなく、地元の人たちが家族連れでいらっしゃることが多いですね」。
シグネチャーディッシュは、1ポンドのラウラウをメインに、いろいろな伝統料理を盛り合わせた「Kanak Atak(カナック・アタック)」。カナックとはハワイの人のことで、人を攻めるという意味が転じて「お腹がはち切れるほどご馳走攻め」といったネーミングだそうです。

食べごたえ満点のKanak Atakは21.99USD。ロミロミサーモンも美味

大皿に乗っているのは、タロイモの葉に包まれたラウラウ、ローストしてからティリーフで蒸し焼きにした豚肉を手で割いたカルアピッグ、トマト・玉ねぎ・ねぎと共にマリネしたロミロミサーモン、蒸したタロイモに水を加えながらペースト状に練り、それを発酵させたポイ、にんにく風味の玉ねぎのマリネ、ココナッツミルクのプリンのハウピア、こんもりしたライスの全7品。
熱々のラウラウにそっとナイフを入れると、肉汁がほとばしり、閉じ込められていた香りがふわりと立ち上ります。4〜5時間かけてじっくりと蒸し上げた牛肉は繊維がふわっとほどけ、そこに加わる豚肉のほのかな甘み、さらにとろけたタロイモの葉のやわらかな苦味が絡み合い、もう絶妙な味わい。
汁物を添えたければ、こちらも地元の人たちに愛されている「オックステール・スープ」がおすすめです。

オックステール・スープ18.99USD。ライスとマカロニサラダがハワイらしい

もともとテツオの時代から、畑と縁が深かったこともあり、クヒオ・グリルでは、牛肉はハワイ産のグラスフェッドの赤身、塩はハワイアンソルト、野菜は地元のファームからなど、できるだけ地元のものを使っています。
「私たちがおいしく料理すれば、生産者さんもハッピー。生産者さんが頑張っていい食材を作ってくれれば、私たちもハッピー。それを食べるお客様もハッピー。地元のコミュニティに協力してもらうことは、みんなが幸せになるひとつの方法だと思っています」とエリンさんは言います。

名物の多いハワイでは、食べ歩きに忙しい人も多いと思います。そのリストに、ぜひ「伝統の味」も加えてみてくださいね。

  1. 現在店を営む三姉妹。写真提供:クヒオ・グリル
  2. 伝統を継承しつつ時代に合わせて進化中。ロゴをデザインして、グッズも展開している

ここからはおまけです。ハワイ旅行が遠いいま、オックステール・スープが懐かしく、自宅で再現してみました。クヒオ・グリルで使うのは、オックステール、ざく切りにした白菜、千切りにしたショウガ、風味付けのにんにくの4つと少しの塩だけ。コツは、骨から肉がほろりと外れるほどやわらかくなるまで、気長にコトコト煮込むことと、丁寧にアクを取って澄んだスープを作ること。オックステールはお取り寄せしました。よろしければお試しくださいね。

江藤詩文(Shifumy)

フード&トラベルジャーナリスト。「ガストロノミーツーリズム」をメインテーマに、世界各国の三つ星レストランからローカルフード、ワイナリー、醸造所などを取材して新聞・雑誌・ウェブサイトに寄稿。世界のトップシェフのインタビューを多数手がける。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻(小学館)。
インスタグラム @travel_foodie_tokyo

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