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ハワイの森とカヌー その1…

ハワイの森とカヌー その1

2022.02.21

ポリネシアの伝統航海を現代によみがえらせた「ホクレア」は航海することに重点を置き、近代の素材を用いながら造られたものでした。しかしはるか昔、古代人たちはハワイ諸島固有のコアの木を使ってカヌーを建造していたのです。「ハワイの森とカヌー」シリーズでは、この現代に伝統的な素材で作られたカヌー「ハワイロア」の物語をお伝えします。

ポリネシアの伝統航海を現代によみがえらせた「ホクレア」は航海することに重点を置き、近代の素材を用いながら造られたものでした。しかしはるか昔、古代人たちはハワイ諸島固有のコアの木を使ってカヌーを建造していたのです。「ハワイの森とカヌー」シリーズでは、この現代に伝統的な素材で作られたカヌー「ハワイロア」の物語をお伝えします。

古代航海カヌーのビジョン ハワイの森に大木を求めて

「ホクレア」が伝統航海を現代へと蘇らせた1976年から15年ほどの月日がたった1980年代、古代のカヌー建造にならい、伝統的な自然素材を使ってカヌーを建造する取り組みが始まりました。

当時、ポリネシア航海協会のナイノア・トンプソンは、伝統素材でカヌーを建造するアイデアの生まれたきっかけについて、このように語っています。

「ホクレアは、航海することに重きを置いたカヌーで、近代の素材を用いながら造られました。けれど古代、祖先たちが海を渡るために自らカヌーを造っていた時代には、カヌー建造というものは、地域で共に暮らす人々みなが力を合わせ、それぞれが技を持ち寄りながら、コミュニティ全体で造り上げるものだったはずです。

森から素材を集めてくる人がいたり、船体を削り出す人がいたり、帆を編む人がいたり、カヌーを組み立てる人、航海のための食料を用意する人、海の安全のための儀式を執り行う人がいたり、と数多くの人々の様々な知恵やスキルが集結してカヌーが造られていたはずです。

この現代に置いて、伝統的な素材でカヌーを造るという試みは、海に出る者たちだけではなく、ハワイのコミュニティ全体をひとつにしてくれるのではと考えました。」

新たに建造されるカヌーは、伝承によりハワイ諸島を最初に発見したとされる古代の航海師の名前から「ハワイロア」と名付けられることになりました。古代の航海師「ハワイロア」は、南太平洋から星を読みながら航海し、ハワイの島々を見出したと伝えられています。

ハワイの森に大木を求めて

「ハワイロア」を建造する際に、まず課題となったのは ハワイの森からカヌーを造るのに十分な大きさのコアの木を見つけることでした。コアの木は、ハワイ原産の固有種で、マメ科アカシア属の木です。とても硬くて丈夫な木で、古来よりカヌーやサーフボードなどを作るのに用いられてきました。コアの木が大きく育つのには、とても多くの時間を要しますが、中には30メートル近くの大木になるものもあります。その雄大な姿から古くから神聖な木とされてきました。「コア」というハワイ語には「勇敢」という意味もあります。

ホクレアのクルーたちは、オアフ島だけではなく、モロカイ島、マウイ島、カウアイ島、ハワイ島と、ハワイ中の森へと出向き、コアの大木を探しました。林業の専門家たちの助けもかりながら、約9ヶ月もの時間をかけて、何百マイルもの森を探しまわりました。しかしそんな努力もむなしく、ハワイの森からカヌーを作ることができるような大木を見つけることはできませんでした。なんとか見つけた大木は、内側からすっかり腐り、朽ち果てていました。ハワイの森は、林業のための伐採や、放牧地を作るための開拓などにより、すっかり傷んでしまっていたのです。

森の中で朽ち果てたコアの大木

「自分たちが思い描いていたハワイの森と、実際の森があまりに違い、とても悲しく落胆しました」

自ら各島の森へと出向き、コアの木を探し続けていたナイノアはそう語ります。

「森の中は、外来種や、イノシシに掘り起こされたシダの葉ばかりでした。木々の間にはツタが生い茂って、木々が絞め殺されているようでした。森と放牧地の間には、境界線を区切るためのフェンスがあったのですが、その姿がとても象徴的でした。放牧地に比べて、なんて森が小さいのだろう。どれだけの森が切り倒されてしまったのだろう。ハワイの森で大木を見つけることは、ハワイの生態系が健全だということを示してくれると思いました。だからこそ、時間をかけてハワイ中の森を探しました。けれど見つけることができなかった。私は落ち込み、そして罪悪感も感じました。」

森を失うことで、自分たちの心の一部をも失ったような思いだった。そう語るナイノアたちは、ハワイの森林の現状を前に落胆の思いに打ちのめされ、ハワイロアを造るというヴィジョンも暗礁に乗りかけました。そんなナイノアたちに、思いがけない場所から助けの手が差し伸べられることになります。

その2へ続く

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