ハイアット リージェンシー ワイキキのカルチャーディレクター、クウイポ・クムカヒさん

2024.05.13

著名シンガーにしてハワイの伝統と文化の守護人、クウイポさんという人

ハワイ音楽の愛好家なら、クウイポ・クムカヒさんの名を知らない人はいないでしょう。プロのミュージシャンとして半世紀近くのキャリアを持ち、これまで7枚のアルバムを発表。ハワイのグラミー賞ともいわれる「ナー・ホク・ハノハノ賞」の常連であり、過去には最優秀女性ボーカリスト賞、最優秀ハワイ語アルバム賞など、主だった賞を総なめにした印象があります。

さらには同賞を主宰するハワイ・アカデミー・オブ・レコーディングアーツ理事長をはじめ、数々の音楽&文化団体の代表も務めてきたクウイポさん。ミュージシャンとしての活動にとどまらず、ハワイの音楽産業の大御所、業界の牽引役の一人として、誰もが多大な敬意を向けるビッグな存在が、クウイポさんという女性です。

そのクウイポさんのもう一つの顔が、ハイアット リージェンシー ワイキキビーチ リゾート&スパのカルチャーディレクターというもの(正式な肩書はハワイアンカルチャー&コミュニティ関連ディレクター)。ハワイでは大変な著名人であるクウイポさんが、平日はハイアット リージェンシー ワイキキのカルチャーセンター「ホオケラ ハワイアンヘリテージ&カルチャーセンター」に出勤。世界からの旅行者を迎え入れていると聞いて、やや驚いた人もいるのではないでしょうか? かくいう私も、その一人でした。

【上:ホテルのダイヤモンドヘッドタワー2階にあるホオケラ ハワイアンカルチャー&コミュニティセンター。ホオケラとは「秀でる、向上する」との意味】

「突然ここで私に会って、驚く人がいるだろうって? いえいえ、ここに来る人のほとんどは私のことを知らないわ(笑)。でも、それでいい。私は自分の顔を売るためにここにいるのではないの。ハワイの文化をシェアするためにいるのですから」

…私の不躾な質問に、愉快そうに答えてくれたクウイポさん。このコラムでは、そんなカルチャーディレクターとしてのクウイポさんに焦点を当て、その役割や目指すものをご紹介します。

先祖がカメハメハ3世から賜ったハワイ島ヒロの広大な私有地に生まれ育って

まずはクウイポさんの基礎知識から。クウイポさんはハワイ島出身。母方の一族は島東部のヒロ郊外に約3万坪の土地を持ち、敷地には川が流れ、なんと滝まであるそう。その海辺の広大な土地で、クウイポさんは敷地に実るガヴァやマンゴーをおやつ代わりに幸福な子供時代を過ごしたそうです。

「その土地は母の曾祖父が、1850年にカメハメハ3世から賜った土地なの。その時、3世から受け取った権利証も残っています。詳細は知らないのですが、きっと先祖はカメハメハ3世の下で仕事をしていたのね」

父親はやはりハワイ島コナの生まれで、ハワイ語を流暢に話すハワイアン。家はコアウッドで造られた19世紀の美しい調度品にあふれ、クウイポさんは一族の所有地で、ハワイアンの伝統的な価値観とともに成長しました。

アクティビティの場というより学びの場としてのカルチャーセンターを構築

【上の写真:写真のコア製のベンチは、クウイポさんがヒロの自宅から持ってきたもの。ホオケラの内装はコミュニティから貸し出されたものや譲られたもので整えられている】

クウイポさんがハイアット リージェンシー ワイキキのカルチャーディレクターに就任したのは、2015年。現在のホオケラ ハワイアンヘリテージ&カルチャーセンター(以下、ホオケラ)が2021年に完成する前、当時は同じフロアの小さなスペースでカルチャークラスが開かれていました。

「私がディレクターに就任した時は、ウクレレにレイ作り、フラという3クラスがあるだけでした。ホオケラの完成後、新たにそのほかのクラスを構築したのです」(クウイポさん)

300平米のカルチャーセンターが、現在の2200平米の堂々たるセンターに生まれ変わったのは、2021年。ホオケラで体験できるクラスは実に多彩です。ウクレレやレイ作りにハワイ語、ラウハラ編み、オヘ・カパラ(竹に刻まれた紋様を使ったスタンプ)。子供向けにはストーリータイムや、ハワイ文化を学べる塗り絵の冊子を使ったクラスまで。ホテルの敷地を巡るウォーキングツアーも人気です。

【上の写真:ウォーキングツアーでのクウイポさん。コアやナウパカなど、中庭に植えられているハワイ原産の植物の話や一帯の土地に住んでいた王族の話、はたまたハイアット リージェンシー ワイキキの海側に位置する「カパエマフーの癒しの岩」(16世紀以前、タヒチからワイキキにやって来た4人のヒーラーの力が込められているという巨岩)など、クウイポさんの話は多岐にわたる】

一方で、このホオケラが単にアクティビティの場ではないことを、訪問してすぐ実感しました。入ってまず目につくのは、王族たちのコーナー。ハワイ王国7代目&8代目の君主、カラカウア王とリリウオカラニ女王、カラカウアの妃であるカピオラニ、その甥に当たるクヒオ王子等の肖像画や写真が展示されています。肖像画にはレイがかかり、昔は王族の象徴だったカヒリ(羽毛飾りがついたスティック)が脇を固めていました。

実はこれらの王族は、ハイアット リージェンシー ワイキキの建つ土地に縁の深い王族たち。ホテルの敷地、そしてその海辺はかつてプアレイラニと呼ばれ、クヒオ王子の居住地でした。元々はカラカウア王の所有地で、カピオラニ王妃が亡くなったのもここ(ウォーキングツアーではこういったホテル周辺の歴史についても詳しく説明があります)。ある意味、王族たちを祀る祭壇にも見える王族のコーナーでそういった話を聞きながら、ホオケラがアクティビティだけを楽しむ場ではなく、ハワイ古来の伝統を今に伝える重要な場所であることが感じられました。

【上の写真:19世紀、プアレイラニ(ホテルの建つ土地)で暮らしていたクヒオ王子】

…実際、ホオケラの調度にはクウイポさんが守ってきたハワイの伝統や価値観が反映され、ハワイ文化の学校のような趣きがあります。各種伝統工芸の珍しい素材があちこちに展示され、希少本も含む書籍は400冊以上(取材時にも子供連れのファミリーが読書に訪れていました)。「ワイキキにこんな場所があったなんて!」と驚愕する訪問者も多いというのも頷けます。

「ここには地元の人たちもたくさん来ますよ。学校の遠足で小学生が来たりね。私立、公立、両方の学校の生徒が来るわ。ほかのホテルの総支配人や州政府のスタッフも見学に来たことがあります」

「観光業は『カルチャー』が加わることで強化される」

そんなホオケレでクウイポさんが目指すのは、人々に真実のハワイを体験してもらうこと。「ハワイはマイタイやサンセットディナークルーズ、ココナッツブラばかりの土地ではない」とは、何度もクウイポさんが強調していたこと。ハワイには長い歴史と複雑な過去があり、決して楽園ではない。誤ったハワイのイメージを離れて、真のハワイを知ってもらう手助けができるよう、ホオケラは意図されています。

「日本を訪れる旅行者だって同じでしょう? 日本では日本ならではのことをしたいはず。私も日本では富士山を愛でたり着物の製作工程を学んだりしましたよ。観光業は、『カルチャー』が加わることで強化されるの」

そういった意味で、ホオケラでの体験はハワイの慣習や心を知ることからスタート。入口前には「靴を脱いでください」のサインがあり、旅行者がホオケラでまず学ぶのは、ここでは靴を脱ぐというルールです。

なぜ靴を脱がないといけないのかと聞く人もいますが、クウイポさんはその問いに、「謙虚に振舞えるように」と答えるそうです。

「それでも怪訝な顔をする人はいるけど、私たちが靴を脱いでいるのに気づくと自分も同じようにします。でも拒んで帰っていく人もいる。そういう人には、ホオケラに入ってもらわなくていいんです」

残念ながら旅行者のなかには、「お金を払っているのだから好き勝手に振舞う権利がある」と考える人たちが一部いる。クウイポさんは日頃からそう感じています。その人たちの文化には、郷に入れば郷に従え…という概念がないからです。一方でハワイに来るたびホオケラを訪れ、今ではすっかりお馴染みになった旅行者も。この取材で出会った青年がその好例でした。

「彼はここでウクレレを習い始め、何度もクラスに出るうち自分のウクレレも買って。今はハワイ語の発音も学んでいるわ」

取材の時間帯にちょうど開催中だったウクレレクラス。講師の横でアシスタントを務めていた青年につき、クウイポさんが嬉しそうに教えてくれました。クウイポさんがホオケラで始めた啓蒙活動は少しづつ、確実に実っているようです。

クウイポさんが未来に見据えるもの

そんなクウイポさんがさらなる目標として目指すのは、ホテルの壁を越えてハワイの子供たちにハワイの何たるか、ハワイアンとはいったい誰なのかを教えること。自分が子供の頃親しんだ自然や安全な社会が失われていることを、クウイポさんは心から憂いています。「私たちは太平洋の島の民。土地や資源、子供たちを守っていかなければ、次世代には何も残らない。私たちが死んだ後に何も残されていなかったら、誰がハワイを守っていくのか。誰が王族の伝統やハワイ語を守るのか。教育、教育、教育。それが全てであり、私の使命です」

そのためには、旅行者に真実のハワイを教える啓蒙活動が、大切な第一歩。それが前述の「ハワイはパラダイスではなく、金さえ払えば好き勝手にしていいわけではない」という言葉に繋がるのですね。

最後になりましたが、ここでクウイポさんが日本人に宛てたメッセージを紹介しましょう。

「ハワイに来たら、ハワイのことをぜひ学んでください。ハワイに敬意を払ってほしい、とは言いません。日本の人たちはもう、十分な敬意を払ってくれているから。そしてハワイに来たら、島の日常的な文化を学んでほしいですね。ワイキキにはあまりハワイアンがいなくて難しい部分がありますが、そうであればぜひホオケラを訪ねてください。ほかにイオラニ宮殿、エマ王妃のサマーパレス、ビショップ博物館など、本当のハワイについて学べる施設も訪ねてほしいです」

なおクウイポさんは月曜~金曜、基本的にホオケラにいますが、ホテル外でのセミナーなども多々。確実に会いたい場合は電話で確認するのがおすすめです。ぜひクラスに参加し、かつクウイポさんとの対話を楽しんでみてください。クラスの概要&スケジュールについては、チェックインの際にフロントで、または以下のサイトから確認を(クラスは予約制ではなく先着順)。各クラスの講師は、複数のスタッフとクウイポさんが交代で担当しています。

https://www.hawaiianmusicperpetuationsociety.com/hookela

※ホオケラは、同じくクウイポさんが代表を務めるハワイアン音楽の振興団体「ハワイアン音楽永続協会」とのコラボレーションのもと運営されており、クラスの講師はクウイポさんの教え子である同協会スタッフやボランティアで構成されています。

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