ワイキキビーチ・マリオット・リゾート&スパのカルチャー・アドバイザー、レイラニ・カホアノさん

2024.07.02

カメハメハ大王付きの神官を先祖に持つハワイ文化継承者

今回ご紹介するレイラニ・カホアノさんは、ワイキキビーチ・マリオット・リゾート&スパのカルチャー・アドバイザー。2023年4月に就任した、実はホテル初代のカルチャー・アドバイザーです。時を同じくしてワイキキビーチ・マリオットはルアウショーの創設や新規のカルチャークラスなど、カルチャーに関連する分野でさまざまな変化を迎えました。今年に入ってからは2つのカルチャールームが創設され、それらを統括するのももちろんレイラニさんです。

現在、新たなカルチャールームの内装を整えている真っ最中というレイラニさん。「1年前にカルチャー・アドバイザーに就いた当初は1日2、3時間の勤務でしたが、いつしかフルタイムでの職務となりました」と、楽しそうに教えてくれました。この夏には、新規のカルチャークラスも随時始まる予定とか。このコラムではそんなレイラニさんの横顔とともに、ワイキキビーチ・マリオットが提供する数々のカルチャークラス、そして今後の展望について紹介していきましょう。

【カルチャールームの1つ、「カルチャーセンター」。こちらではハワイアン・スティールギターと羽毛の花作りのクラスを開催】

厳密にいえば、レイラニさんはカリフォルニア・サンノゼ生まれ。両親はホノルル在住でしたが、サンノゼ出身の父の希望で臨月の母がサンノゼへ。レイラニさんが生後1か月の時にホノルルに戻ってきました(父方のファミリーが島での出産に一抹の不安を抱いたためだそう)。父方はイタリア系アメリカ人、母方はハワイ島コハラにルーツを持つハワイアン。しかもレイラニさんの7代前の先祖がなんとカメハメハ大王付きの神官、ヘヴァヘヴァと聞き、驚愕しました。

へヴァへヴァといえば、戦場でも常にカメハメハ大王に付き従ったハワイ最高位の神官。カメハメハの死後、残された妃とともに宗教改革に関わった、史上名高いパワフルな人物です。「クーパフKupahuという私のミドルネームは、へヴァへヴァゆかりの名。神殿にある背の高い太鼓をクーパフといいます」とレイラニさん。

【カルチャールームの1つ、「クイーンズパーラー」。ハワイの王族たちの肖像画のほか、レイラニさんの先祖へヴァへヴァの肖像画も飾られている(レイラニさんの右手奥)】

そんな背景から、レイラニさんはハワイアンとしての軸を大切に人生を歩んできました。8歳からフラを踊りはじめ、プロの踊り手として、ハワイ州のプロモーションを担う観光・コンベンション局の全米ツアーに参加した時代も。

2014年には長年のフラ修行を経て得られるクムフラ(フラの師としての称号)の資格を、フラの大御所であるエドワード・カラヒキ2世から得、今ではホノルルと日本でフラスクール「ハラウ・フラ・オ・ナーマモアケアクア」を開いています。

【「クイーンズパーラー」で水曜日に開催される現代フラのクラス。写真提供:ワイキキビーチ・マリオット・リゾート&スパ】

また熟練のレイメーカーでもあり、2023年にはホノルル市主催のレイデーの祭典を代表するレイデー・クイーン(レイ作りの技術などの審査を経て選ばれます)の称号も獲得。ちなみに私にとってレイラニさんは、ハワイ王国時代の王宮、イオラニ宮殿でのボランティアの大先輩でもあります。レイラニさんは2008年から宮殿でボランティアを務め、かつては宮殿の要職に就いていたことも。

こうしてハワイ文化にさまざまな立場で関わってきたレイラニさんですが、もう一つ、カルチャー・アドバイザーとしては異例のキャリアの持ち主でもあります。医療従事者として30年以上の経験を持ち、2018年まではカピオラニ病院やトリプラー病院といった大病院に看護師として勤めていたのです。なかでも新生児ケアに情熱を捧げてきたレイラニさんは、今なおフリーランスの看護師として月数回のペースで新生児ケアの現場に身を置く、現役の「白衣の天使」でもあります。

優しい語り口と笑顔に表れる穏やかな人柄、ハワイ文化への深い造詣。そして(看護師として培われた)ホスピタリティと献身の精神を合わせ持つ、アロハな女性。それが、レイラニ・カホアノさんという女性です。

ワイキキビーチ・マリオットの初代カルチャー・アドバイザーとして手がけたこと

さて冒頭で、レイラニさんを「ホテル初代のカルチャー・アドバイザー」と紹介しました。…ワイキキビーチ・マリオットではレイ作りやラウハラ編みなどのクラスを長年、実施していたため、私はずっと以前からホテルにカルチャー・アドバイザーが常駐しているものと勘違いしていたのです。ですが以前のクラスはリゾートアクティビティとしての範疇で開催していたもので、レイの作り方などHOW TOを中心にしたものだったとか。

一方、レイラニさんがカルチャー・アドバイザーに就任してからはクラスの種類が刷新されただけでなく、内容についても伝統や文化も含めたクラスに。理解を深めるためにハワイの歴史や簡単なハワイ語、ハワイ古来の価値観にも触れる、より深遠なクラスとなったのです。

こうしたクラスの舞台となるのが、今年開設されたカルチャールーム2つ。以前はギャラリー&ショップだった隣り合わせの空間を利用して、「カルチャーセンター」「クイーンズパーラー」がオープン。カルチャーセンターでは羽毛工芸やスティールギター体験が、そのほかのクラスはクイーンズパーラーを中心に開催されています。

【「カルチャーセンター」には以前、カパフルにあった羽毛工芸専門店ナー・リマ・ミリ・フル・ノエアウのスタッフが常駐。水曜のクラスでは羽毛の花作りを教えてもらえるほか、水曜以外にも羽毛工芸のデモンストレーションを行っています。羽毛工芸品&素材の販売もあり。写真提供:ワイキキビーチ・マリオット・リゾート&スパ】

ちなみに新規スペースの1つが「クイーンズパーラー(女王の客間)」と名づけられたのは、ワイキキビーチ・マリオットの建つ土地がかつてハワイ王国8代目の君主、リリウオカラニ女王の静養地だったため。リリウオカラニ女王は昔ここに2つのコテージを持ち、ホテルのタワー2棟にそれぞれ女王のコテージの名称が付けられていることを、レイラニさんが教えてくれました。

ワイキキビーチ・マリオットのそういった特別な背景を踏まえてレイラニさんが心がけるのは、「ホスピタリティ溢れる学びの環境」を整えることだといいます。

「この2つのカルチャースペースで常に何かが催されていて、でもザワザワした雰囲気ではなく、リラックスムードが漂っている。そんな空間作りを目指しています。ハワイの多様な伝統文化が楽しく、けれど敬意とともに正しくシェアされる場所にしたいですね」

まるでリリウオカラニ女王の客間をゲストに開放しているようなアットホームな雰囲気のなかで、宿泊客に本物のハワイ文化に触れてほしい。それがレイラニさんの願いです。

【「クイーンズパーラー」にて】

生まれ変わったカルチャークラスの数々

そういったクラスのほとんどで現在、講師を務めるのはレイラニさん自身。スケジュールを見てみると、水曜日がレイラニさんにとってきわめて多忙な1日であることが一目瞭然です。朝6時からの詠唱クラスに始まり、1時間ごとに「ハワイの王族の歴史」「現代フラ」「ハワイ語」「ウォーキングツアー」と多彩なプログラムが続きます。

詠唱のクラスはまずクイーンズパーラーでハワイ語の詠唱を学び、その後、クヒオビーチへ。海に向かって詠唱するという、興味深いもの。また5月に始まったばかりのウォーキングツアーでは、ワイキキビーチ・マリオットの敷地ゆかりのリリウオカラニ女王をはじめ、ホテル周辺の土地にまつわる王族の話、ホテル内のアートの話などもシェアする約1時間のツアーです。嬉しいのは、水曜以外にも、宿泊客の希望する時間帯にウォーキングツアーをアレンジしてもらえること。

【早朝に開催されるハワイ語詠唱のクラス。写真提供:ワイキキビーチ・マリオット・リゾート&スパ】

「私は月曜から金曜までホテルにいるので、ホスピタリティの一環として、喜んで宿泊客の予定に合わせて特別ツアーをしますよ。コンタクト用の携帯番号も公開しています」

現在、さらにレイ作りやラウハラ編みをはじめカパ布作り体験、ポイ作り体験、オヘ・カパラ(竹を使ったスタンプ)など、ハワイの誇る伝統文化が体験できるさまざまなクラスを準備中で、素材の揃ったものから始めていく予定とか。2023年度レイ・クイーンだったレイラニさんが教えるレイ作りも、私としてはぜひ体験したいクラスです。

なお現在も羽毛工芸やハワイアン・スティールギターについては外部の講師を招聘していますが、いくつかの新規クラスでも著名な講師を招き、グループを作って対応していきたいとのこと。そのクラスが初心者レベルであっても、「ハワイアンの何たるか」をさらに深い見地から経験してほしい。レイラニさんは、そう熱心に語ってくれました。

【ウォーキングツアーのひとこま。クイーンズパーラー前で。写真提供:ワイキキビーチ・マリオット・リゾート&スパ】

【同じくウォーキングツアーのひとこま。ロビーに展示された作品「カ・マカ・ヒヌ」に秘められたハワイの過去や文化を象徴する図柄を説明するレイラニさん】

一方、珍しいクラスとしては椰子を使ったミニチュアほうき作りや、パウライダーの伝統を学ぶクラスなど。パウライダーとはパレードによく登場する騎乗の人のこと。華やかな衣装を着けた女性パウライダーはパレードの華ですが、その伝統衣装の付け方など、内容は多岐に渡りそうです。

こういったユニークなクラス構成の裏にあるのは、「失われつつあるハワイの知識や技術を、宿泊客にシェアしたい」というレイラニさんの信念。「私たちの先祖がどんな風に暮らしてきたか。そして当時の技術が現代社会でどんな風に継続されているのかを知るのは、大切なこと。そういったことをシェアするのが新たなクラスの目的なの」とレイラニさんは強調します。

「たとえばハワイでの土地の重要性も、皆さんにぜひ知ってほしいのです。食物に限らず、土地から得られる全てがハワイでどれほど大切だったか。椰子の木を例にあげれば、椰子のそれぞれのパーツには家造りや帽子作りなど、多くの用途がありました。またカパ布はワウケの木から作られますが、どうやって作られたのか。そういった知識を共有していかないと、ハワイ古来の技術はどんどん失われていきます。ハワイに来る旅行者はハワイ流のやり方が好きなのでしょうから、私たちが学んできたことを旅行者にも共有したいのです」

レイラニさんからいただいた日本人旅行者へのメッセージ

【「クイーンズパーラー」に立ち寄ったレイラニさんのご主人&お母さんと。ご主人のキモ・カホアノさんは数々のイベントで活躍する著名MC。日本人の間でもお馴染みだ】

最後に日本人に向けて、レイラニさんが以下のような温かなメッセージを寄せてくれました。

「私たちは日本と日本人が大好きなんですよ。ご先祖との関わり、家族や昔からの価値観を大切にしていること、王族や皇族を持つ事実も含めて、ハワイと日本の伝統には似た部分があります。ハワイ王国のカラカウア王&カピオラニ王妃やリリウオカラニ女王も、日本とは強固な関係にありました。カラカウア王が自分の姪のカイウラニ王女を、明治天皇の甥に嫁がせようとしたほどに。こういった事実が、カラカウア王&カピオラニ王妃が築いたハワイ―日本間の基盤の強さを物語っていると思います。そしてそれは今なお続いているの」

さらにハワイ発祥のフラが日本で広く受け入れられている事実にも言及し、「日本人はまるでハワイで育った人のようにフラを踊りますね」とレイラニさん。現在、フラダンサーを念頭に新しいプログラムを計画していることも、こっそり教えてくれました。日本のフラスクールなどのグループ客が生演奏とともにフラを披露できる場を提供するという、画期的なプログラムです。

「これはフラ・リトリートとも呼べる特別プログラム。ディナー客の前でステージに立ったり、週末のイベントで踊る場を提供したいと思っているの。日本のフラダンサーにとってワイキキビーチ・マリオットが、いつでも戻ってこられるホームのような場所になれたら。年内に実現できたら嬉しいですね」

…実はレイラニとは長い本名の短縮形で、本来の名はクウレイラニメケアロハマウ。「永遠に続くアロハを持つ私の最愛、至福の子」を意味する、美しく意味深い名称です。まさにその名の通り、途切れることのない温かいアロハの心を持ったレイラニさんプロデュースのフラ・リトリートが、早く実現しますように! 年内を目途に現在、準備が進行中だそうです。

ワイキキビーチ・マリオットのカルチャークラスの詳細は、ホテルの公式サイトで確認ください(宿泊客限定のクラスとなります)。スケジュール等は、季節やその週によって予告なく変更されることがあります。

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